川崎病その5
病棟の廊下で高齢のご婦人とすれ違い、
何となく会釈すると、
眉間を指で突き起こされる。
ハッとして、それが美容師さんの指で、
カット中にカクンともたげた首を起こしてくれたモノだと気づく。
美容室でもこんな夢見るのか、と自嘲しつつ、歳も近く小さな子もいるオーナー美容師さんに現状を軽く話す。
「それで有休なんですね、でも僕みたいな個人業だとどうするだろう、とりあえず朝は店に出て、後は交代…でも結構苦しいですね、何か考えないと。」とちょっと深刻にしてしまった。
冬を迎えるには切りすぎた髪に違和感と肌寒さを覚えながら、
息子を連れて病院へ。
やっと娘に会えるという事で息子は興奮気味。
デイルームで久々に再会した二人は、
各々で遊び方を主張してすれ違う。
そこに、先日の御老体。
「おお、なんや、お兄ちゃんもおるのか。よしよし、タッチは?」
何故か娘はダッシュしてタッチ笑。
はしゃぐ二人に僕は、
君達!声がデカいよ、
二人とも、ネズミさんの声で!というとチウチウ遊び出す。
お爺さん「いやよく躾けられとるな、、お兄ちゃん何年生や?え、まだ保育園か!えらいシッカリしとるなー」というので謙遜はするけど、
確かに、
息子の言葉遣いは素晴らしい。
言っておくが僕は何もしてない。
保育園だ。
スイミングスクールでも実家の友人の子供でも6歳児ともなれば一人称は「俺」や「ワイ」というのも普通だがウチのは「僕」。
お母さんに対して「ママのバカ!アホ!」人によってはママの事を「オマエ」呼ばわりだが、ウチの子は言わない(単に妻がアレって話もある)。それが普通なんだろう。そりゃ敬意なんてもっと後で持つ物だろうし。
ただ息子の保育園の子供達は全員一人称が「僕、私、自分の名前」。これ、オプションとしてはめちゃくちゃいい。居酒屋で頼んでも無いのに無償で飲み放題が付いてきたレベルだ。
まぁそんなこんなでお爺さんとの距離感も掴めてきたが、やはり妻は苦手なようだった。(ママを罵倒する子はパパが100%悪いと、この時妻は言っていた。)
ウチに帰ると、お義母さんが。
娘の様子を伝えると、まだ入院は続きそうだけれど元気な事には満足した模様。
息子が布団に吸い込まれ、
お義母さん、良かったらどうです?
と僕はお義母さんのグラスにワインを注ぐ。
先日の話や妻の小さい頃の話をして、
帰り際「あの子が退院したらお祝いやな」と仰るので、
ちゃんと良いワイン買ってますよ、その時は祝杯に付き合ってくださいよ、
と、お義母さんを見送る。
僕とお義母さんは、お互いの第一印象は最悪だったと記憶してる。
その後も結婚式の件でモメたり僕も本気で怒った事もあった。
でももう10年。
気が付けば同じ愛情を注ぐ幼く尊い命を守る同盟の志士であり、
その信頼度は高い。
決して得意な人ではないし、
その本意が孫にあると分かっているけれど、
軽蔑と信頼、
そして愛情で結ばれる関係。
僕達はいつの間にか、
家族になっていたのだと知った。