川崎病その4
仕事中、娘が大部屋へ移動する、と、
看護中の妻から娘の元気そうな写真付きで、連絡があった。
少し気持ちが軽くなる。
交代前に息子を風呂に入れると、グズってたはずなのに突然上機嫌でママゴトを始めたので遅くなり、風呂を出ると妻から「早よ来て」とのLINEが連打されていた。
病院に着くと疲弊しきった妻。
元気過ぎて大変だと。
まぁ喜ばしいのは間違いないけれど…。
妻を見送り、点滴が外れ身体の自由に興奮してる娘と病棟を散歩してると
点滴を引いて歩く大柄なお爺さんに「おや、まだ寝てないのかな?」
と話し掛けられ「お父さん、何の病気や?」と、ぶっきらぼうに続けてきた。突っ込んでくるなぁと思いながら、
まぁちょっと、難病で…、と濁すと
「あぁ、川崎病か!」と。
そもそも小児病棟のあるフロアなので良くご存知のようだ。僕は、まぁそうですね、と返したが、お爺さんは娘に早く寝ないとまた注射だよ、と言ってバイバイして帰っていった。
大部屋は個室に比べればやはり何かと不便だ。なんせ病人とは思えない元気っぷりなので、小さい子2人、お兄ちゃん1人の4人部屋では娘が圧倒的に煩いだろう。
気を使うなぁ、と思ったが、
明け方になれば小さい子のダブルギャン泣きで目を覚ます事になるし、お兄ちゃんは朗読の練習してるし、
まぁお互い様かと、むしろ気が楽になった。
朝飯の後、デイルームに娘を連れてコーヒーを取りに行くと、昨夜のお爺さん。
おはようございます、と僕がコーヒーを淹れてる間娘を少し構った後、
「お父さん、しかし、この間仕事は大丈夫なのか?休みどのくらい貰えるんか。」と聞かれるので、
一週間くらい大丈夫ですよ、看護休暇と有休合わせてですけどね、と自嘲しながら答えると、
「ほー、大きなトコに勤めてはるんやな」と。
謙遜でなくそれは否定しておいたけれど、これはもうお爺さんの頃とは働き方の感覚がやはり全く違うのだと感じた。今日日、娘の看護もさせてもらえない会社の方が非常識と言わざるを得ない。
そこまで考えて、もしかして、
専業主婦ならこの状態でも旦那は仕事、妻はずっと看病という事になるのだろうか。現代ならば御家庭によるのだろうけれど、
お爺さんの時代では当たり前のように妻が看護するものだったとしたら、
それは企業としての利益を追随し、子育てを後回しとした社会だったと言わざるを得ない。
確か、あの世代の子供達って暴走族とかがカッコ良かった世代だったのでは…。
なんて事をボンヤリ考えながら、
娘の靴下を脱がすと、鼻が曲がる。
看護師さんから温かいオシボリを貰って身体を拭くと何故か号泣。
その声を聞きつけて、先のお爺さんも、どうしたんや?!大丈夫か?!と大部屋へ入ってくる。
いやいや、身体拭いただけですよ笑。
「あーそうか、頑張ったなー、バイバイ、ほらタッチ。」と、お爺さん、娘を褒めて去っていったけど、
いや、これ僕やなくて妻やったら、
まあまあ嫌な気したんちゃうか…と思い次の交代が心配になる。
とはいえ同じ病棟やしムゲにするのもなぁ、と、
少し困惑気味の大部屋初日になった。