砂漠(お砂場)の攻防
子供らを公園へ連れていくと、
六歳の息子はママゴトかブランコ、
三歳になる娘は滑り台と、お砂場もお気に入り。
お砂場は、僕には鬼門だ。
持参の道具の有無で遊び方が変わるので、
見知らぬお友達との「かーしてー」「いーいーよー」のやり取りが必ずある。これが親の僕からすれば煩わしい。
こちらが用意していれば貸してと言われ我が子が嫌だと思っていれば理不尽な気もするし、もちろんこちらが借りる立場となればその逆なので、親御さんに申し訳ない。
そして今日、買い物の途中とあってあまり来ないアウェーな公園。娘はお構いもなく砂場へ。
先に陣取るのは、四歳、二歳くらいの男児兄弟二人。得物は、バケツに入ったシャベルなど一式と、ポリ製の紐付きダンプだ。
対して、
こちらは完全な丸腰。
もちろん娘、速攻で二歳の子に「かーしてー」と。すると二歳の子が「いやっ!」と自己主張。四歳の兄は「ダンプは誰にも貸さないよ!」と。
孤立した娘はお砂場の周りを周り出す。すると息子が砂場に登場。
「ダメだよ、ちゃんと貸してっていわなきゃ!」と娘に軽く言付け、自分で兄弟に交渉を挑むも決裂。
砂場サイドにいらっしゃる親御さんもオロオロ。僕は様子を伺う。
こういうパターンはあまり無い。
さぁ、息子、どうする?
すると息子は「ブランコ行こ!」と言い出すので、まぁ退散するのは悪くない選択だが娘はまだ砂場で遊びたそうだし、ここで出ていけば、あの兄弟に追い出された感じになる。それは親御さんも当然望まないだろう。
よし、出番だ。
僕は砂場に入り袖をまくった。
娘に、じゃパパと遊ぼう。ほらオニギリ作ろうか、と昨夜の雨で湿り切った砂を握ると娘も大喜び。じゃ、次はケーキ作ろう。僕が砂を集め出すと、四歳児のお兄ちゃん、足で砂場に線を引き二分し始め「ここから入ってこないで!」と。
ほほう、なかなかの縄張り意識。
親御さんは止めに入るけれど、あー、全然いいですよー。と。
砂で作ったケーキ。よしローソク立てるぞー、と息子と娘に小枝を探させる。
すると、その兄弟の長男君、シャベルで砂を持ってきて「砂ならあげる」と。
あぁ、ありがとう。
じゃ次はそうだな、オジサンの顔描くよ。
ほら、口は枝で、目は落ち葉だな、誰か持ってきてよ!
僕が言うと息子は嬉しそうに葉っぱを置く。娘はわっさりと枯葉を落とす。
それを見て息子は妹に「あーっお髭〜!」と爆笑。そのウチ例の長男君、「これ髪の毛にしたら?」とナイロン袋を持ってくる。ん、いいね。よし、こんな感じだなー。
おっ、君、カッコいいダンプ持ってるね、じゃあ道作って走らせようか。
と僕が言うと息子が枝で線を引き始める。砂場をグルリと、僕と息子で線を引き、その道を長男君がダンプの紐を引いてを走らせる。
娘と次男君はキャッキャとその後を追ってくる。
一回りしてダンプが横転して、
僕らは皆声を出して笑った。
オロオロ様子を見てた彼のお父さんも、コース内に深い溝を掘り出して、障害物を作る。砂場の雰囲気が変わりだす。
子供らは自己紹介なんかもしたりして。
気付くと長男君が、シャベルの沢山入ったバケツを持ってきて「貸してあげる」と。
それを当たり前みたいに掴む息子に僕は、
ちゃんと貸して、と言いなさい、と叱ると長男君が「いいよ別に」と言うので、君が大切なモノは大切にしたらいいんだよ。無くしたら悲しいだろ?と
なんだか上手いこと大人な言葉が出た。
あ、もうそろそろ時間だな、
いくよ、バイバイしなさい。
そこで初めて僕は親御さんと目を合わせ会釈すると、やたら深々とお礼されて、なんだか申し訳なく感じた。
僕は楽しかっただけなんだ。
新しい出会いに人は壁を作る。
それは当たり前だけどお互いに気になって少しづつ、打ち解けあう。
大人同士なら、何日掛かるだろう。
もしかしたら奇跡かも知れない。
子供に混ぜてもらったんだ、僕は。
子供の頃にしかないこの、マイナスからプラスへのあっという間の変化を体感させてもらった。それは、
今まで砂場の横で見守るだけの父から、
この手で砂を握る事で、一歩踏み込めたからだろう。
あのお父さんも、一生懸命、谷を掘ってたな笑。きっと、同じ気持ちを味わってくれただろうか。
夕暮れに向かう冬の乾いた空の下を、
なんとも温かい気持ちで、子供らを載せた自転車を、僕は漕ぎ出した。